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日本における「赤ずきん」の受容 :
Reception of “Little Red Riding Hood” in Japan. In: Baika Women's University Faculty of Psychology and Children's Studies bulletin (10), 2020, 1-12. → 
副題
平成期を中心に Focusing on the Heisei Era
著者名
野口 芳子 (NOGUCHI Yoshiko)
出版社/掲載誌名
梅花女子大学心理こども学部紀要
巻号
10号
1-12頁
出版日
2020/3
キーワード
赤ずきん, 日本での受容, 平成期, グリム童話, ジェンダー
概要
この論文の目的は、平成期(1989-2019)に日本で出版された110話の「赤ずきん」を精査し、内容を分析することによって改変点を明らかにし、そこから平成期の子ども教育観、ジェンダー観などを読み取ることである。平成期に出版された「赤ずきん」は、グリム版の原典に忠実なものが多いが、同時に自由に書き換えたパロディー調のものも目立つ。注目すべきは赤ずきんと祖母が結託して狼を石桶で溺死させる後日談を紹介する絵本や、救出者が母親に変わる絵本が出現することである。フライパンで狼を殴り殺す勇敢な母親が登場するのである。これらの絵本は、「強い男に守られる弱い女」という近代のジェンダー観を刷り込む役割を果たしていない点で注目に値する。一方、狼の腹を縫うのは、男の狩人から女性の祖母や娘の仕事にすり替えられていく。獣の皮を縫うという猟師の仕事が、裁縫という家事労働に置き換えられ、女の仕事に読み替えられたのである。ここでは家のなかでする仕事は家事であり、女の仕事であるというジェンダー観が刷り込まれている。「悪なる存在」ではなく、赤ずきんと友達になりたい「善なる存在」の狼が登場し、「狼=悪」という偏見を捨てるよう説くパロディー版が出現する。教育上「人権尊重」と「警戒心」のいずれを優先すべきか、という問題が提起されているのである。