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学術データ詳細
『グリム童話集』と『ドイツ伝説集』に登場する蛇 
Snakes in the Fairy Tales and German Legends of the Brothers Grimm.
著者名
野口 芳子 (NOGUCHI YOSHIKO)
出版社/掲載誌名
梅花児童文学会『梅花児童文学』 
巻号
28
43-61
出版日
2021/3
キーワード
グリム童話 蛇 ドイツ伝説
概要
 『グリム童話集』に登場する蛇は、主として命をもたらす存在であり、善なる存在であり、悪なる存在ではない。一方、『ドイツ伝説集』に登場する蛇は、主として財宝をもたらす存在であるが、同時に処女の娘を誘拐して、半人半蛇に変身させる恐ろしい存在でもある。蛇に変身させられる理由は、「傲慢」や「異教徒」というキリスト教で最大の罪を犯したからである。  メルヒェンでは半人半蛇の女性は救出されて人間に戻るが、伝説では戻らない。救出者の男性が蛇に対する「恐れ」を克服できないからである。恐れず無鉄砲に挑んでいくメルヒェンの男性は呪いを解き幸運をつかむ。しかし、この種の男性は伝説には存在しない。しかしながら、現世での幸運をつかめない伝説の男性は、半人半蛇の女性の性的誘惑に打ち勝ったことで、逆に来世での幸せを手に入れたのである。なぜなら、独身と清貧生活を貫く人のみが天国に行けるからである。  この世での幸せを求めるメルヒェンに比べて、あの世での幸せを説く伝説にはキリスト教的価値観が色濃く残存している。なぜなら、メルヒェンは口承で収集された話が多いが、伝説集は書物から収集された話が多いからである。伝説には書物を著した学識(僧侶)階層の価値観が盛り込まれているが、メルヒェンには平民層の価値観、つまりキリスト教以前のアニミズム神である蛇を神聖視する価値観が色濃く残存しているのである。