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したたかなシンデレラたち
副題
ガラスの靴か金の靴か
著者名
野口 芳子 (NOGUCHI Yoshiko)
出版社/掲載誌名
芦屋市男女共同参画センターウィザスあしや オープニングセレモニー・記念事業・基調講演
出版日
2019/1
概要
芦屋市男女共同参画センターウィザスあしや オープニングセレモニー・記念事業 2019年1月19日(土) 基調講演:したたかなシンデレラたち・ガラスの靴か金の靴か グリム童話の「灰かぶり」が履いているのは、ガラスの靴ではなく、金の靴である。500話近くある西洋昔話のシンデレラが履いているのも金の靴である。ペロー昔話の周辺でのみガラスが出現するが、ガラスが採用された理由については拙著『グリム童話のメタファ―』(勁草書房2016年)で詳しく説明している。ファンタジックな「ガラスの靴」ではなく、豊かな稔り(小麦の穂の色)を象徴する「金の靴」で、灰かぶりは王子を翻弄する。左の靴を階段に残したまま走り去るのは、「靴を渡すことは、所有権の移譲を表す」という慣習法や「左の靴が脱げる女は出産できる」という諺を熟知していたからである。 メタファーで出産能力をアピールし、王子に所有されることを確信する灰かぶりは、余裕で王子の出現を待つ。そのうえ彼女は運動神経にも恵まれている。ドレスを着たまま猛スピードで走り去り、木の枝に飛び乗り、鳩小屋に飛び込む。王子は取り残され唖然とするばかりである。結婚式で継姉たちの目を鳩に突かせて復讐した灰かぶりは、公の場で身の潔白を宣言したのである。なんと賢く強かな娘であろう。慣習法の知識を駆使して道を切り開くグリムの灰かぶりと、救済者の出現を待つだけのディズニーのシンデレラとでは、自力本願か他力本願かで大きく異なる。